ルーンクエスト情報局

新ルーンクエストの情報です。

「グローランサ」についての簡単な紹介文

幻想世界グローランサについて

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 グローランサというのは米国のゲームデザイナー、グレッグ・スタフォード氏が創造したファンタジー世界です。


 通常はこういうものはファンタジー小説などとして発表されるのが普通です。しかし、グレッグ氏はこの世界を使って『White Bear & Red Moon』(WB&RM)【*1】というボードゲームを作ったのが一風変わっていました。氏自身が語るところによると、小説の3要素(キャラクターと設定と筋書き)のうち、筋書きを無くした(プレイする人が筋書きをつくるようにした)「Do It Yourself Novel」を作るという意図だったそうです。【*2】

 『WB&RM』が1975年に発刊されたその月、ちょうど前年出版された『D&D』の1版を手にとったグレッグ・スタフォードは、本人の弁によれば

「そして私は当時のアメリカ人の大多数と同じ感想を抱いた。
『俺ならもっとうまくやれる』」 [会場爆笑]


f:id:mallion:20170405232147j:plain:w200:left ……という理由で(笑)スティーブ・ペリン氏とともにグローランサを背景とした『ルーンクエスト』というRPGを発刊しました(1978)。


 『ルーンクエスト』は、D&Dのカウンターパートとして当時の米国TRPG界に大きな影響を与えました。特に緻密な背景世界と膨大な設定で遊ぶ「第二世代RPGは、この『ルーンクエスト』や『トラベラー』(1977)が最高峰であるとされています。


 『ルーンクエスト』は当時まだ学生だった日本のゲームデザイナー諸氏(水野良氏や清松みゆき氏など)にもよく遊ばれ、日本におけるゲームデザインの最初期に大きな影響を与えています【*3】。また翻訳されたルーンクエスト(RQ)は、本格的な海外TRPGとして、D&Dとともによく遊ばれ、デジタルゲームでも一定の影響をみることができます。【*4】

【*1】後に改稿されて「Dragon Pass」(ドラゴン・パス)として発売。日本でもルーンクエストに先立ちホビージャパン社から翻訳出版された。


【*2】『GREG STAFFORD TALK SHOW』,「TRPGがもっとやりたい!!」,アトリエサード刊(2003年)より。なお、この桂令夫氏との対談は、「ケイオシアム社が設立された理由が持ち込みが断られ続けてタロットカードで占った結果だった」とか「クトゥルフの呼び声の誕生のきっかけが、サンディ・ピーターセンのルーンクエストのモンスター集サプリメントの持ち込みだった」とか興味深い事実満載の記事ですので、興味がある方はぜひご一読を。

TRPGがもっとやりたい

TRPGがもっとやりたい


【*3】水野良清松みゆき の『ソード・ワールド』の背景世界フォーセリアや、友野詳の『GURPS ルナル』などにその影響が指摘される。ちなみに水野良氏はオーランス派、清松みゆき氏はイェルマリオ派だったそうな。


【*4】『ガンパレード・マーチ』の芝村裕吏氏が、影響を受けたTRPGでよく挙げるのが『T&T』と『ルーンクエスト』です。噂レベルではもっといろいろあります。

グローランサという「システム」について


 グローランサルーンクエストの背景世界として有名ですが、ルーンクエストとはいかなる特徴をもつシステムなのでしょうか。


 ルーンクエストは、いわゆる「第二世代TRPG」の代表格として挙げられる存在です。第二世代TRPGとは、

第二世代RPGの定義:「戦闘ルールよりも、むしろキャラクターの生活世界に関する事象を中心にルールで記述し、“その世界の住人”として生きることを楽しむことを主題とした、ストーリー指向・キャンペーン指向のRPGのこと」【*5】


です。第二世代TRPGの特徴は、「システムによって世界を表現しようという欲求」だと言えるでしょう。システムの中には、もちろんルールもありますし、世界を説明した背景設定も含みます。これ総体を「データ」と言ってもいいでしょう。データによって世界を表現しようという欲求の発露が第二世代TRPGであるといえます。


 その上で「ルーンクエストグローランサ」というシステムの特徴は、


  • 世界を表現するためのデータ処理が〈技能〉処理と能力値/副能力値処理に集約されている。そのため世界への干渉を簡単に記述できる。
  • 《魔術》により、〈技能〉処理・能力値/副能力値処理が大きく干渉を受けるため、《魔術》処理が世界観の中心に位置づけられる。
  • その《魔術》を獲得するシステムが「カルト」システムとして世界観にからめて構築され、さらにカルトがキャラクター・アーキタイプとして機能する。
  • 「カルト」の上位存在として「神殿」または「神群」というものがあり、これが文化圏を特徴づけるとされることで、文化・習慣を意識させる。
  • 文化・習慣・歴史は、「背景世界情報」という「データ」で記述される。(ルールの埒外だが、システムに組み込まれている)


 という多重構造にまとめられるかと思います。


 「カルト」は、「神話」「世界の中のカルト」「カルトの生態」「カルト内の位階」「精霊呪文(エブリデイマジック)」「神性呪文(必殺技)」「友好カルト」(神殿/神群の中の関係)といったフォーマットを基準に解説され、これを「カルト・ライトアップ」といいます。(必要最小限にまとめたものを「ショート・カルトライトアップ」、4~5ページにわたるものを「ロング・カルトライトアップ」と区別したりしますが、構造は同じです)




 たとえば、ヴォーリアという女神さまがおります。


f:id:mallion:20170405233122j:plain:w250:right ヴォーリアは大神オーランスと大地母神アーナールダとの間の娘で、大暗黒が終わり「時」が始まる前に生まれました。「長い冬」が終わったときに生まれた女神なので、「春の女神」とされています(神話)。ヴォーリアはアーナールダの寺院でともに信仰されています(世界の中のカルト)。ヴォーリアの信者は成人前の少年少女たちが中心です(カルトの生態)。カルトの入信者は少年少女たちなので、信仰には加われません。女祭は他のカルトに入ったことのない大人の処女であることが条件です(カルト内の位階)。精霊魔術はなし。神性魔術は《ヴォーリア礼拝》、《開花》、《活力付与》、《小動物との会話》です。友好カルトは大地神殿の女神たちです。

《開花》 1ポイント
接触、残照、複合不可、再使用可
花を作り出すことができる。何かの表面に触れて1魔力ポイントを消費することにより、触れた場所に一輪の可愛い花か一枝の葉が開く。そこが小さな植物の生長に適した場所ならば、根付いて成長する。(タイルの床や他人の耳の裏側のように)生長に適さない場所だったときは、花や短い枝つきの葉が現れるだけで、その場所に根付くことはない。魔力ポイントが尽きるか接続時間をすぎるまで、女祭の歩くそばからつぎつぎと花を咲かせることもできる。


 これを読んで、「人間の頭に花を咲かせられたからといってそれが戦闘や問題解決に何の意味があるというのか!」と思う人もいるかもしれません。しかし、われわれはそういった戦闘とはまったく関係がないものも含めて、世界は成り立っていることを実感できるのです。【*6】

【*5】『多摩豊の「RPG世代論」を正しく把握する』, gginc(http://d.hatena.ne.jp/gginc/20070820/1187666679)。


【*6】実際には、ヴォーリアたんの女祭には、保母さんカルトとして子どもたちとお遊戯したり、攫われ役になるという大事な役目があります。


 最後に、サプリメント「ジェナーテラ」には、これらの「システム」の「ルール」から演繹して世界を考察する、ファンからも絶賛されている世界解説がありますので、一部引用してみましょう。

 多くの人間にとって、グローランサは単純かつ簡素な世界である。地球の言葉を使えば、人類の大半はいまだ新石器あるいは青銅器文明の段階にある(すなわち、一部で始まったばかりの農業、原始的な道具類、単純な政府が特徴)。しかし、地域によっては魔術や過去の時代の遺産のおかげで、中世のレベルか、あるいはそれ以上の段階のレベルに達しているところもある。


(中略)


 グローランサにおいては、誰もが宗教と魔術の存在を認識している。これは生存にとって基礎的な要素であると考えられている。神々は誰もが認めるように実存し、世界に対して強大な影響力をふるっている。


 ここでは魔術が世界を支配しているため、日常生活が多くの意味で地球とは異なっている。カルトや宗教を中心に人々の生活がある。魔術は生活の安定や安楽を手に入れる手段であると同時に、いさかいと恐怖の源でもある。


 怪我や病気は地球の場合ほど深刻ではない。というのも、肉体的な傷や病気であれば、友人や家族、あるいは土地の誰かに治してもらえるからである。このことは、高い治療費を払って、わざわざ専門家のところに出向かねばならない地球の場合とは対照的である。


 魔術で傷が簡単に治るということは、裏返せば、暴力が紛争解決の手段として日常的に用いられている、ということも意味している。


 病気はケガよりもはるかに危険が大きい。これは病の神マリアなどの有害な存在のためである。病気の治療はふつう地域レベルで行われ、費用も安いが、幼児や児童の多くは、治療者のところに連れて行かれる前に死んでしまう。


 狩猟や農業も魔術の恩恵を受けている。土地が肥沃になるように呪文がかけられ、それによって収穫が増える。狩猟の場合も、武器が強力になるような呪文によって、狩人の放つ矢の威力が増す。このようにして、より大規模の社会を支えることができる。しかし、魔術戦争と災害の時代が続いているという事実は、天然資源の豊かな地域が少ないということをも意味している。


(中略)


 グローランサにおける人間の死亡率は、一般的に地球の古代または中世のそれに近い。ただし、死亡率は子どもや老人に特に高く見られるわけではなく、あらゆる年齢層で平均している。グローランサの幼児は、地球の中世における幼児よりも成人まで生き残る確率が高い。しかし、そうして生き残った者は、成人が果たすべき危険な仕事を引き受けなけくてはならない。老いるまで生き残るのはさほど難しくはないが、それは彼が巨大な権力を得たか、あるいは若い頃に巧みに責任を回避したことを物語っている。


 要するにグローランサの魔術は、片方の手で与えたものを、もう片方の手で奪い取っている、と言い表すことができるのである。【*7】

【*7】サプリメント「ジェナーテラ」付属『グローランサ・ブック』、「編集者による序論」、ビル・ダン、1988年 より抜粋。