ルーンクエスト情報局

新ルーンクエストの情報です。

ただしい「牛争い」のはじめかた

ルーンクエスト「クイックスタート」収録のシナリオはプレイされたでしょうか?

runequest.hatenadiary.jp


このシナリオをプレイされた方から「ルーンクエストって牛ゲーなんですか?」「サーターは牛本位義経済」「牛泥棒事件を解決するという地に足ついた導入、とは」「牛泥棒が定番というRPGは少なくとも日本じゃ類を見ない」などといった声が挙がっております。


はたしてオーランス人社会でふつうにされているらしい「牛争い」(Cattle Raid) って何なのか? その実相に迫ってみたりみなかったりしたいと思います。

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オーランスは盗みを禁じ給わぬ。」(ただし認められている範囲の中では)


ということで、氏族同士で牛を強奪しあうのは、健康的な若者のスポーツの一種とみなされています。
牛の強奪は、友好的な氏族に対して行ってもその友好関係を損ねることにはなりません。


この牛の強奪の神話的な起源はというと、嵐の時代の嵐の神々の冒険行、「アローンの略奪」(Plunder of Aron)だということになっています。
それはかいつまんで語ると以下のような話です。

嵐の時代、オーランス大神の息子、ヴィングコット王の農場から、すべての家畜がいなくなるという事件があった。
オーランスの息子たち、“雷鳴の兄弟”たちが探索に旅立ち、狩人の神オデイラがその居場所を突き止めた。
この冒険で“略奪者”と異名をとることになるフィノヴァン神に率いられた雷鳴の兄弟たちはアローンの地を略奪し、見事に家畜をとりもどした。
(なおオデイラは名を称えられることが少なく、以後シリーラの森に姿を消し、雷鳴の兄弟に数えられることはなくなった)

牛争いの風景

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農閑期である「海の季」の終わりから「火の季」のはじめ(晩春から初夏)にかけて、オーランス人たちの間では牛の略奪がおこなわれます。PCたちも、略奪を率いるNPCから誘いを受け、略奪に参加することになるかもしれません。
または、PCたちの住む農場(ステッド)が、ほかの氏族からの略奪を受けることもあり得るでしょう。おそらく夜、PCたちは番猫(アリンクス)たちの警告の鳴き声や、牛の鳴声によって目覚めることになるでしょう。

略奪のはじめかた

牛の略奪は、「戦の氏族」にとっては略奪は生活の糧でありますが、「平和の氏族」も牛を盗むのはやぶさかでないのです。


牛の略奪は、若人が自らの「血気」を示す機会でもあります。自らを証立て、そして牛という生活に必要不可欠な財産を得ることができるわけです。これは「カウンティング・クー」(北米先住民族の文化で、戦士が豪胆の証しとして敵戦士に素手や棒で触れてくること)に近いと言われています。オーランス人は本当の戦さについて「牛争い」から学ぶのです。


通常はベテランの略奪者が参加者を募ります。少人数で行うことが多いですが、これは氏族の土地に忍びこむ「隠密の技」が重要だからです。


略奪をおこなう前に、氏族の族長の許可を得ることが通例です。若者は略奪を期待されているため、族長が略奪の権利を否定することは稀です。
ただし族長は友好氏族への略奪や、関係が悪化していて「係争」への瀬戸際にある敵対氏族への略奪を却下することはあります。(そうした場合、族長は「略奪を許可するが、許可したとは考えられない」言い回しをします。たとえば「遠くのいとこたちに会ってこい」だとか「市へ出かけて新しい馬を買ってこい」だとか。許可をしたとみせてしていない。大人って汚い)


だが、その族長自身も若い頃に「牛争い」で名声を得たはず。若人の立身の機会を拒み続ける族長は、彼らが「自由意志で」略奪に出かけるのを目にすることになるでしょう。


公的に明示された許可を得ていない略奪へ参加者を募るのは難しくなります。また、もし牛争いを強行しても、見返りとなる財産(牛)が少なければ、トラブル解決に使う「ワーゲルド」(贖罪牛)が足りなくなり、困ったことになるかもしれません。

略奪のバンドは小さく、通常は12人以下です。略奪の前には供儀が捧げられます。

略奪行

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略奪者たちはパトロール、牛飼い、牧童などをできるだけ避けていきます。見つかれば氏族の領地に侵入者がいることを村に知らせる角笛が鳴らされてしまう。おっつけ近くにいる近侍戦士が家を飛び出し、おっとり刀で侵入者を探し始めるでしょう。氏族全体に警戒を出すため、族長へも使いが出されます。


略奪は隣接した氏族だけにおこなわれるものではありません。旅は物語にとっては重要なパートでありますが、シナリオでは省略されることも多いでしょう。


目的は村人が対応できる前に牛を奪うことです。かすみ猫(アリンクス)と一緒に牛を見張っている牛飼いがいるというのは最悪。家の敷地内に牛が囲われ、気づかれずに目的を果たすのが難しいこともあるかもしれません。
見とがめられずに牛を盗みだすことが出来なかった場合は、何をおいても逃げ出すべきでしょう。さもなくば、駆けつけた村人たちと戦闘になるでしょう。戦闘が起これば、どちらかに重傷を負ったり死んだりする者が出て、損害が出た氏族へ「贖罪」(ワーゲルド:牛)を支払わねばらななくなります。悪くすれば氏族同士の「係争」(殺し合い)に発展します。


牛争いはオーランス人の宿痾」とおっしゃっていた方がいましたが、この牛争いのためにオーランス人は内部抗争が絶えず、なかなか統一王権が誕生しない、ということはあるかもしれません。


時を追うごとに追及の手は増えるでしょう。近侍戦士につかまれば、圧倒的な力の差で牛を返すように迫られるでしょう。牛を盗むのに成功したとしても、隣接していない氏族の場合は、通り道の氏族が自分たちに「貢納」(盗んだ牛の中から)を求めるかもしれませんし、天候などで牛を連れ帰るのが難しくなるかもしれません。

ぶんどり品の分配

PCたちが牛を連れて無事帰還できた場合、バンドの指導者はまずその牛をいったん族長に「贈る」かたちをとります。
それから族長は報酬として牛を略奪者たちに「分配」することになります。


しかしPCたちが「殺し」をしてきたとすれば、族長は贖罪のために支払う牛をその中からとっておくでしょう。
族長の許しを得ずに略奪に出かけた場合は、報酬どころではないことになるかもしれません。

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