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魔道と苦行

まりおん補注:
このエッセイは、魔道の分派がどのように生まれていったか――特に、第二期フロネラの信仰からカルマニア、そしてルナー魔道への展開を解説したものです。


マルキオン教を表す言葉に「一なる神に数多の教え」という名言がありますが((c)ジオ亭通信社)、マルキオン教の「神」は人間たちに道を示したりはせず、人々がその「論理」(=宇宙の法則)を追求する中で様々な教義が生まれていったため、その理論の数だけ分派が生まれる、という状況が生まれました(「…見えざる神への信仰は、我々の世界のそれに酷似しているのである。見えざる神の存在は、客観的事実として観測に乗ることがない」(Vampire.S 氏、ジオ亭通信#6))。

魔道

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 魔道は物質世界(MATELIALIASTIC WORLD)に対する基本的な魔術である。魔道が初めて言及さるのは(訳注:ペローリア地方で)、邪悪な水底の神ヤー・ガン(YarGan)*1の持つ恐るべき力としてであった。ヤー・ガンの魔道の実際の生態は分からないが、西方の論理王国*2との関係が取りざたされるのが普通である。おそらく、これは最初期のマルキオン文明の植民地のひとつであったのだろう。そうだったとしても、それはジェルノティウス(Jernotius)と高神たち*3によって滅ぼされ、魔道は失われた。


 第一期、マルキオン教の司祭や魔道士が個人としてジャニューブ河を何百マイルも遡ってペローリアへたどり着いたということはあったかもしれないが、いたとしてのその影響はほとんどなかった。


 アーカット・グバージの侵略がペローリアへ魔道をもたらした。だが悪魔的な西方の方法を取り入れたのは最も愚かな者たちだけだった。ヤー・ガンの時と同じく、魔道はふたたび悪魔的で非人間的なものと考えられたのである。

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 第二期、神知者たちから逃れた“先陣”サイランティールは、より洗練された形の魔道を西部ペローリアにもたらした。サイランティールと共に東方へ来た者たちのなかに、ペランダに救護院付修道院を建設したエストレコール(Estrekor)という者がいた。彼は当時「エストレコールの“純粋なる神”の教義」(Estrekor's Doctrine of Pure God)と呼ばれたものを伝道した。これが彼の創造的才能によるものかどうかは不明だが、彼がこの(旧時代のフロネラの)信条の(現存する)最初期の原型を記し、伝導したのは確かである(※訳者注:神知者の「正道への回帰」運動によってマルキオン教の教義が統一される以前の記録を残したということか)。


 エステコールは、究極の神(Ultimete God)は世界に外在するのではなく世界に内在しているものだということ、またフロネラのマルキオンとは真の創造主ではなく、むしろ邪悪な物質の王(evil Lord of Matter)であると強調した(※訳者注:マルキオン教の主神を「見えざる神」だと発見したのは神知者であり、神知者が征服する前のフロネラではマルキオンは創造主と混同されていたものと考えられる)。その神(訳注:マルキオン)はまた、フロ・ナラキノ(FroNalakino)、あるいは“偽りの創造神”フロン・イム・マラキヌス(Fron Im Malakinus the Demiurge(※ demiurge とは(現実の)グノーシス派で世界を創造したとされる下級神) と呼ばれ、彼が“一なる心”ロマナクリン(Romanakrin)――フロネラ語でロ・マナクリン(Ro Manakrin)とは“一なる心”(One Mind)を意味する――とよぶ創造主(Creator)とは別のものだとされた。エステコールはまた、“一なる心”は善悪を超越しているが、善を行うことはできても悪をおこなうことはできないと強調した。これによって人倫と善神(Good God)の関係が確立された。後にこれは「ロマナクリンの英知」と呼ばれることになる。


 「ロマナクリンの英知」は預言者カルマノス(Prophet Karmanos)によって彼の革新的な二元論的信教に取り入れられた。カルマノスが説くには、イドヴァヌス(Idovanus)とは最高神かつ善神であり、彼の言葉で言うなら「ロマンクリントゥロス」(Romankrinturos)であった。イドヴァヌスに対するのは邪神ガン・エストロー(GanEstoro)*4であり、純粋な(魔道)魔術ではなく神々をつうじて業を行うのである。


 後にイドヴァヌスの司る領域だと考えられていた魔道が邪悪な意図を持って使われるようになったとき、カルマニアの聖賢(magi)たちは自分たちの心を調査し、その境界を巡回した結果、邪悪な魔道は古い“邪悪な魔道士”フロ・ナラキノ(FroNalakino)(=「フロネラのマルキオン」のなまったもの)の影響下にあると結論づけた。フロ・ナラキノはヤー・ガンの背後にあった神秘の力であったと考えられた。[このころ、バイソスのような多くの“下級神”が認証され、“善”の側に迎えられた] 後になると、魔道―物質界との魔術的な干渉―はイドヴァヌスによって為された純粋な原初の行動から切り離され、善にも悪にも使うことができる一連の自然の法則と見なされるようになった。この「善き魔道の神」はイドヴァヌスのしもべ、マラキヌス(Malakinus)であると証明された*5


 第三期になると、本当のフロネラ人たちの「神」はさらなる啓示を示した。おそらく、これは「数字のゼロ(0)の発見」に促され分化したものであったろう。[実際、「0」はフロネラで発見されたのである] あるいは「大閉鎖」の中の深い内省からのものかもしれない。あるいはこれは(ルナー帝国で主張されるように)フロネラにおいて「ロマナクリンの英知」によって影響を受けた教義・信条であったとすることも可能かもしれない。もっとありそうなのは、ロマナクリンもまたそこから発することになった、前サイランティール時代の豊穣なフロネラの信条によって刺激をうけたものであったということである。恐怖されそして憎悪された「第二期のマルキオン」――サイランティールがあれほど激しく抵抗し、そして敗れた、神知者たちの信じた「一なる(別れたる)心」とは、より偉大な存在、「秘された動作者」(Hidden Mover)の顕現したものにすぎなかったことが証明されたのである。

 「秘された動作者」とは認知不可能な存在であり、創造の背後にあった力である。「秘された動作者」(様々な理由から法士たちはその存在を知っていた)とは、また「プライマ・マテリア」(Prima Materia)(=“全て”)であり、それが「宇宙的な遠近法」(Universal Perspective)(=“客観性”)を生み出した。[続いて起こった“全”に対する“客観性”の反映が“一なる心”を生じ、それが「生命なき物質」と「形なきエネルギー」を知覚したのである。この“一なる心”こそ、神知者たちが信仰したものであった]*6 *7


一方、“先陣”サイランティールはペランダ地方で信仰されていた法の神イドヴァヌスがこのイレスヴァルの「仮面」であることを証明し、その子、預言者カルマノスが善神イドヴァヌスと悪神ガネサタルスの抗争を中心教義におくカルマニア正教会を成立させたのである。


 現代のルナーの思想では、「秘された動作者」とは唯物主義者による悟法的現象の解釈と考えられ、カタリヨ(Katalyo)と同一視されている。全ての魔道の行いは物質界から引き出されたものであるため、彼らは決して自分たちの神(それは信者たちの間では名前を持たない)に到達することはできないのである。


 ルナーの宇宙論は魔道を包含している。宇宙論とは神々に属すものであるため、ルナーの信条では(実際の実践者たちの言葉とは裏腹に)それらは「神」である――明らかに違う種類の神性ではあるが――と言明されている。ルナー神話では、魔道における「プライマ・マテリア」をマラディダラ(Maradidala)、すなわち「知覚され得る女神」、「宇宙的な遠近法」を“物質の支配神”マラキヌス(Malakinus)として解釈している。


苦行


 “超越”は悟法の顕著な特徴である。超越存在は通常の宇宙論の領域*8の外に存在する。ときに神や女神として扱われ祭られることがあったとしても、かれらは神というより「力」である。通常の礼拝や供儀はこれらの力に対しては無意味であり、並外れた苦行の実践による方法を通してしか到達できない。


 超越の意識は、歴史時代のペローリアにおいては11万1375年(訳注:イェルム暦。太陽暦375年)にナイサロールの誕生と共にもたらされた。その死と分割(訳注:アーカットによって五体をバラバラにされたこと)によって生じた欲望は、ジェルノティウス神が瞑想の奥義を幾人かの人々に教えたことにより満たされた。ルフェルザの神格化により、七柱の月の女神はひとつに集まり、超越の意識が神の領域にもたらされることが可能となった。例えば、セデーニアは数柱の神々を啓発し、現在のその神々のカルトは超越の実践が含まれている。シャーガシュはそのような例の一つである*9


 以下は、ルナー帝国における最も一般的な超越の神々である。

  • ヴェズカルヴェズ(Vezkarvez):「不知」。
  • カタリヨ(Katalyo):「究極の知」、最高の存在。
  • プリモルトゥス(Primoltus):カタリヨの思考、あるいは視覚。「超越せる光」、また「結合する力」。
  • デリタ(Derita):カタリヨの沈思、あるいは声。「超越せる暗黒」、また「分解する力」。
  • タレルタラ(Tareltara):プリモルトゥスとデリタの集合瞑想。「創造の力」(Creatrix)、また「循環する力」。
  • ウルティウム(Urtium):プリモルトゥスとデリタの共同の舞踏。
  • エセルソラ(Ethelsora):プリモルトゥスとデリタの共同の疎通。
  • セデーニア(Sedenya):タレルタラの仮面、「創造の力」の宇宙論的な相。「変化させるもの」、「変化の女王」と呼ばれる。この女神が現れたことで、(通常の)宇宙論的な神性たちが生じることとなる。(そして、セデーニアの「仮面」が赤の女神である。ルナー教では、カルマニア正教を開いたカルマノスを赤の女神の化身であったとしている。)

*1:ヤー・ガン、忌まわしきもの [ペランダ神殿、神] ……淡水海の底に住んでいる“青人”を率いる食人神。見えざる神とは異なる体系の魔道を使い、バイソスやダクスダリウスと戦った。(私家版神名禄より)

*2:ジェナーテラ大陸の西方にあったとされる太古の王国。ダンマラスタン(Danmalastan)とも。大暗黒の最中に海中に没し、今は存在しない。

*3:いずれもペランダ地方の神。

*4:現在(1600年代)では“悪魔”ガネサタルス(Ganesatarus the Devil)と呼ばれている。

*5:カルマニアでは、現在もマラキヌスの魔道(白魔道)とフロナラキノの魔道(黒魔道)が使われている(黒魔道の使用は聖賢たちにのみ許されている)。ルナー帝国との決戦(四本の光の矢の戦い)では、黒魔道が大規模に使われたと思われる。

*6:これはRQの「カルトブック」を引いての説明が分かりやすいであろう。「自然は認知可能で、可測関数であるから、創造は最初の等差級数とともに始まったのである。知ることのできぬもの「0」(注:これがこのエッセイで言う「秘された動作者」=「プライマ・マテリア」)のつぎに、「1」すなわち創造主がやってきた(「一なる心」=神知者の「見えざる神」)。そして彼は、「2」すなわち宇宙の二重性を作った(「生命なき物質」と「形なきエネルギー」)。「2」は、「3」すなわち既知の世界をつくった……と続いていく。世界をかたちづくっている多様な元素と力は、つぎつぎにつながりゆく数学的な連鎖からできている。」(ルーンクエスト、カルトブック p.9) フロネラでの0の発見とは、創造主(「1」)に先立つものがあったことの認識と同義であると思われる。

*7:ヒーローウォーズサプリメント、「Glorantha」によると、フレストル派が信仰する唯一神はイレスヴァル(Iresval)とも呼ばれ、これがこのエッセイで言われる「秘された動作者」のことである。イレスヴァルは神知者のいう“見えざる神”(フロネラ人はマカン(Makan)と呼ぶ)に先立つ存在とされる。ちなみに、神知者の後継たるロカール派はこのマカン=“見えざる神”を信仰している

*8:神々の世界の理、神界の法則の外にあるということか。

*9:シャーガシュはダラ・ハッパ地方の地獄の神の一柱。