1621年~22年にかけて起こる大事件である「オーランスの死」のストーリーアークは、「グローランサ年代記」の中では全く語られていません。
最近の復刊ではそのあたりの情報が「再発見」された版が出てくるんじゃないかという話もありますが、おそらく古参のRQゲーマーでもこの「オーランスの死」から「凍土の戦い」(Battle of Iceland)に至るところがどう話が進んだのかは知らない人が多いのではないでしょうか。
そこで、どんな流れであったのか、年表にまとめてみました。
年表中の「第○日」は、年の初めからかぞえて何日目かを表しています。グローランサでは1年は294日です。
ネタバレになりますので、そこを確認の上、「続きを読む」でどうぞ。
世界の終焉
これは、“いかに世界が終焉を迎えたか”に関する物語である。――そして、いかにその息吹を取り戻したかの。
■風が止まる
1621年:闇の季・第18日(闇の季/死の週/風の日)
闇の季は冬の季節であり、その初頭より寒さが訪れる。北西からは地を這うような冷たく強い風が吹いている。人々は数日後に祖霊を礼拝する場所へと旅し、準備を整えている。旅するには陰気な天候であり、年老いた者たち、病床の者、そして少年少女たちはおおむね家に残ることを選んでいた。
朝のことである。
突然、風が止まった。
サーターの全ての人々は、驚きと困惑と不信に、そしてついには恐怖に凍りついた。すべての風が止み、空にあるわずかな雲も完全に静止し、形をかえるのをやめた。
オーランスとアーナールダ、そしてその下位カルトからもたらされる魔術は、その働きをやめた。その全てが――いかなる神技も神力も使えず、ワイターは沈黙し、アンブローリの風も止まった。コーラートの祈祷師たちは既に呪縛した精霊たちを使役することはできたが、他の精霊に接触しようとしても、風の精霊だけではなく、その存在が全く失われていることに気づくだけであった(後に、人々はヴァリンドの魔術もまた働かなくなっていることを発見する)。
この日から数日のうちに、人々は何をするにも風の助けなしではやっていくのが難しいことに気づいた。これはオーランスとアーナールダの神殿を礼拝するすべての信者に影響を与えた。サーター、ヒョルトランド、エスロリア、ウェネリアのほとんどの人々が影響を受ける(オーランスが供犠を受けている異国、たとえばプラックス、ラリオス、フロネラ、ウーマセラなどでさえ影響が現れたのだが、それらの地はこの本の扱う範疇ではない)。しかしながら、これは全ての者に等しく影響が出たわけではなかった。異邦の神々はまったく影響を受けなかったのである。
人々は口々に噂した――「ブロイアン王が死んだのだ」。そしてそれは真実のようであった。宗教の経験が薄い人々は祖先の礼拝をやめ、保護をあたえてくれる新しい宗教に身を投じた。まずこの恩恵を受けたのは、七母神のルナーカルトであった。
オーランスとアーナールダ、そしてその下位カルトとの接触はすべて失敗に終わる。神託によってもたらされるのは、神々の死、破滅、不在のこたえだけであった。
1621年
出来事 |
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闇の季/死の週/風の日(第186日)。ホワイトウォール陥落。「風の停止」。サーター全土でオーランスとアーナールダへの接触が不可能になる。 |
闇の季/死の週/荒の日(第188日)。「祖霊の日」(祖霊の祭儀)。祖霊たちもなぜ風が止まったのかは分からない。 |
闇の季/豊穣の週/土の日(第192日)。「機織りの日」。癒し手アーナールダの聖日。アーナールダの礼拝が失敗する。族長たちは部族の王へと連絡を始める。 |
闇の季/移動の週/風の日(第207日)。「護りの日」。雷鳴轟くオーランスの聖日。オーランスへの礼拝が失敗する。民衆の間に「オーランスの死」の噂が広まり始める。 |
嵐の季/混乱の週/荒の日(第230日)。「良き風の日」。コーラートの聖日。人々はコーラートの精霊のお守りを買い求める。寒さがさらに厳しくなる。 |
嵐の季/豊穣の週/土の日(第248日)。「女王の日」。女王アーナールダの聖日。女たちは「アーナールダはただ眠っているだけ」と知る。希望が生まれる。 |
嵐の季/移動の週/風の日(第263日)。「合一の日」。オーランスの大聖日。氏族はすべて部族の聖地に集まり最大の準備をもって儀式を執り行う。しかし儀式は失敗。ルーンは砕け散る。「オーランスは死んだ」との認識が広まる。古の風の寺院でルナーとの戦闘。オーランス信者の多くが、ドバーダンの雨に焼かれて殺される。「合一の日の悲劇」。 |
嵐の季/移動の週/火の日(第264日)。嵐の山脈の山中で、ホワイトウォールの陥落を逃れていたブライアン王が秘密の集会を執り行う。反乱の氏族から、かんじきを履いた伝令が各地へ送り出される。 |
聖祝期(第281日〜)。神への礼拝は行われず、祖霊礼拝で「我が戦い、皆が勝った」の神話再演が行われる。各地へブライアン王の「これは大暗黒である。来る戦いに備えよ」の言葉が伝えられる。「オーロックスの丘で」の言葉が部族の族長へともたらされる。冬は終わりの気配がなく、さらに厳しくなっていく。 |
神々の黄昏の冬/フィンブル・ウィンター
ルナー帝国では「大満月の年」として祝われた1621年が終わり、1622年が訪れます。
ドラゴン・パスでは、普段は海の季とともに始まる冬は、終わりなく続きます。
冬の蓄えは底をつき、薪とする木も凍りつき、雪をとかして水を得ることも難しくなってきます。
-40〜50度の世界。
風はまったくなく、静寂のなか、しんしんと雪が降り続きます。
風が止まってからというもの、次第に息をするのも難しくなってくるようです。老人や子供といった、弱い者から倒れていきます。それを防ぐ魔術もなく、儀式もヒーロークエストも行えないなか、人々は必死に生存のための戦いをつづけます。
多くの氏族は、わずかな食料をもたせて戦士たちを荒野へ送り出します。食い扶持を減らし、また予言された戦いに備えるために。
属領地軍司令官である“聡明なる”タティウスは、新たに稼働したサーターの「大昇月の寺院」の防護を固めながら、少数のエリート部隊を各地へ送り出し、生き残った反乱軍の殲滅をはかります。
フィンブル・ウィンターの出来事
- ホールリ(氷の魔)の襲撃:山頂から、氷の怪物が下りてきて生あるものを襲う。
- トロウルの跳梁:寒さに耐性のあるトロウルとトロウルキンたちが、各地で大ごちそうに舌鼓をうつ。
- ルナーの「殺戮部隊」の襲撃:これを機にオーランス人を絶滅させようとする狂信者、賞金稼ぎ、ならず者が、邑(ステッド)を襲う。
- 動物たちが里に:知性をもった動物に率いられた動物たちが邑に助けを求めに。お互いに助け合おうと(食べられないと約束される限り)。
- 狼たちの冬:狼の群がサーターに跋扈する。村の外れに弱いものを置いて、狼避けにしようとする氏族も。
- アーナールダの寺院:飢饉の際に倉を開けてくれる大地の寺院も、見捨てられており、魔法の祭具も行方不明に。
- 七母神の寺院:七母神の寺院は食料を配給し、人々をルナーの道へ勧誘する。「オーランスが死んだ今、復讐の執行者もいないのですよ」。
- 死体の山:おびただいし量の死体が山になっているのが発見される。誰が、何のために?
- オーランス人の死:各地で都市、砦、村々が放棄されているのが発見される。ルナーは「ついに蛮人たちが死に絶えた」と帝国中枢に報告を送る。
真相:大昇月の寺院の稼働
この出来事は、全世界でおきているのではありません。
「風の停止」が見られるのは、サーターの「大賞月の寺院」から半径400kmの範囲の中です。(このなかにはパヴィス、エスロリアのほとんどの地域、ヒョルトランドなどが含まれる)
通常の「昇月の寺院」の効果範囲は40kmにすぎないのですが、この寺院は地下にある「正体不明のエネルギー」を使用して、巨大な効果を生みだしているのです。
「ホワイトウォールの陥落」により、儀式的な条件が満たされたため、大昇月の寺院が稼働し、その影響範囲内で「風が死んだ」のでした。
サーターを中心としたエア・スポットに向け、世界中から風が吹き込むようになっています。しかし、そのグローラインに触れるところで、風は止んでしまいます。
大昇月の寺院から400kmの範囲内から出られれば、この魔術的な「冬」から逃れられます。
オーロックスの丘
都市や氏族のトゥーラを見捨てて荒野に逃れた人々を、反乱軍のメンバーが訪れ、南のヴォルサクシの地との境界にある「オーロックスの丘」へと導きます。
ここで、人々は「春」が訪れるまで、魔法的な眠りにつくことができます。
戦士たちは、反乱軍に加わり、最後の反攻の戦い――「凍土の戦い」へと臨みます。
凍土の戦いは、「大地の季/混乱の週/土の日」、赤の月が「新月」である日に定められます。
ブロイアン王は、「邪悪の召喚」の儀式を開始します。
凍土の戦い Battle of Iceland
オーロックスの丘
「凍土の戦い」の舞台となる「オーロックスの丘」は、ドラゴン・パスとヴォルサクシ地方の狭間に位置する丘陵地帯です。(南方にホワイトウォール、北方にクァックフォードがあります)
オーランスとウロックスが、火の神ダレッドとその配下の「赤い炎人」たちと戦った場所とされ、ウロックスがスカイ・ブル(オーロックス)をつかって赤い炎人たちを倒したといわれています。赤い炎人たちは、円錐柱の奇岩の上に封じられて、その頂点部分が赤くなっているのだといいます。
(たぶん、こんな地形で、上部の地層だけ赤くなっているんだと思う)
ブライアン王たちは、ヒョルト人の避難民をこの奇岩のなかの洞窟に隠し、魔法的な眠りにつかせています。「オーロックスの丘で」の合い言葉により、氏族からの戦士たちもここに集結し、ブライアン王の反乱軍に加わっています。
両軍の構成
サプリメントでは戦いに参加した人数は記されておりません。ので、推測になりますが、おそらくブライアン王陣営が2000〜2400人、ルナー陣営が3000〜4000人程度ではないかと思われます。
さらに、この戦いはグバージ戦争の「昼と夜の戦い」などと同じく、魔術的な背景がある戦いなので、さまざまな不確定要素としての援軍があり、戦況を左右します(このあたりの運用はGMに任されていたりする)。
- 巨大なアリンクス(インキンの使い)
- 祖霊(グバージ戦争、大暗黒時代を戦ったもの)
- ヒョルトの鹿(神霊)
- ナル・シル(風の子ら、嵐の山脈から援軍)
- ヒーロークエストの友(異界が「近づいている」ため)
- 黄金の鷹(ダラ・ハッパの神霊)
- 混沌
- 火の部族(奇岩に封じ込められていた神霊が解放される)
- トロウル(“紫の”ミナリスの友)
- 精霊の戦士たち
ルナー軍は「重装歩兵」「軽装歩兵」「軽装騎兵」「魔術部隊」と、一通りの兵科をそろえ(重装騎兵としては、エシルリスト卿の黒騎士が10騎のみですが参加しています)、陣形を組んでいるのに対し、オーランス人側は「歩兵」のみ、さらに戦術も無いに等しい(「奇襲して、森まで誘い込んでオークフェドを召喚して森ごと焼き払う」)という状況。さらに、ルナー側は連隊の「戦略魔術」で強化されているのに対し、オーランス人側は魔術が無い状況です。さらに兵力ではルナー軍が圧倒しています。シナリオの記述を読むと、将軍ウルセリオンの軍隊運用も巧みで、名将といっていいと思います。
普通に考えたら、ルナー軍は負けるわけがありません。実際、戦況もルナー側有利で推移することになるのですが……
■戦闘前夜
前夜。空にはほとんど雲もなく、澄み切った空に星々が輝いています。
赤い月は暮月であり、星々を切り取る黒い円のように見えます。
青白い氷と雪が大地を覆い、突き刺すような寒さと耳が痛くなるような静寂――。
そんな中、各部隊をブライアン王がまわり、簡単に作戦を説明し、演説をして士気を鼓舞します。
「神々が敗れたとき、人の子が勝たねばならぬ。今や大暗黒のとき。戦いに備えよ!」
その後、各自は予定された隠れ場所(洞窟など)へ戻り、休息をとります。
■夜明け前
各部隊はそれぞれの神に祈りを捧げます。フマクトは死んでいないので、死の神に祈りを捧げる者が多い。あたりは死者の国のようで、おそらく多くの者は今日、そこに行くのだろうと思われました。
やがて、北方より行軍するルナー軍の姿が見えてきます。
ターシュの都市から派遣された、属領地軍の歩兵連隊が2個連隊です。
槍先は太陽に輝き、腰には斧を吊っています。その数、オーランス側の2連隊に倍しています。
ストームウォーカーとイーグルブラウン隊は、息をひそめて奇襲の時を待ちます。
■初期配置と作戦
ルナー軍の陣容はシナリオには書いてないんですが、こんな感じだと思われる。
オーランス人側としては、本隊に奇襲攻撃をかけて、後退しつつ森に誘いこみ、そこをコーラートの祈祷師が召喚したオークフェドの大精霊で焼き尽くす、という一発逆転狙いの作戦をたてています。
これに対しルナー側。
ウルセリオン・タシュケヴェスは有能な将軍だと思われますが、オーランス人の戦力を過小評価し、軍を2つに分けています。
おそらく、ルナー側はポーラリス(極星)の戦略魔術で戦場を俯瞰しているので、ブライアン王の本陣がどこにあるかを知っていると思われます。また、オーランスの常套手段が不意打ちであることも知っています。
ターシュ歩兵2連隊は、おとりとして行軍させ、攻撃を受け止めた後、側面から遊撃部隊で攻撃し、兵力を削りつつ足止め。
その間に本隊であるベリル・ファランクス連隊と遊撃部隊が迂回して本陣を叩きつぶす、という作戦だと思われます。イェルマリオの聖堂戦士による傭兵隊は予備兵力として温存しています。
ルナー側、隙がありません。
不安要素は、新月のため戦略魔術が3割減、というところですが。
さて実際の戦いでは、どうなるか。
■緒戦:ターシュ歩兵連隊vs.奇襲部隊〜陽動後退
イーグルブラウン隊による奇襲攻撃。ルナー側も奇襲を警戒しているため、ブライアン王の奇襲戦術をもってしても成功は五分五分――と思われたのですが、偶然にも飢えた農民の一団が戦場に迷い込み(えー!)、ルナー側の準備していた戦闘魔術はそちらに向けて発動してしまいます。これに乗じてイーグルブラウン隊も奇襲に成功(判定があるので、たぶん、ですが)。
ターシュ歩兵連隊は分断され、大損害を受けます。イーグルブラウン隊は予定通り撤収し、ストームウォーカーと合流しようとします。
一方、ルナーの遊撃部隊である「ラスダッグの獅子団」(ペランダ地方から来た、獅子の皮をまとった軽装歩兵部隊)は、撤退するイーグルブラウン隊を側面から攻撃、奇襲します。イーグルブラウン隊は秩序を保ちつつ予定の合流地点に移動しようとしますが、「ラスダッグの獅子団」の追撃を振り切るために、何らかの手段が必要となります。(PCの出番?)
合流地点において、ストームウォーカーと合流した部隊は「ラスダッグの獅子団」と戦闘、これを撃退します。
しかし、遊撃部隊はもう一つありました。「焦剣の旗軍」という私兵部隊(ルナー貴族が組織する傭兵団みたいなもの)です。焦剣の旗軍は「ラスダッグの獅子団」との戦闘をカバーとして森を迂回し、反乱軍にさらに奇襲攻撃を仕掛けます。
「ラスダッグの獅子団」との戦いで陣容を乱していた反乱軍(PCの判断によっては追撃していたかもしれない/その場合はさらに損害が大きくなる)は、この攻撃によって大損害を被ります。予備兵力として待機していた「秘密の疾風団」は反乱軍の劣勢を見て援助に動き、これにより部隊の残存兵力は後退することができますが、その兵力は大きく減じてしまいました。「焦剣の旗軍」は離脱し、本隊と合流するために移動します。
緒戦はルナー、オーランス側双方の痛み分けに終わります。しかし、もともとの兵力が少ない反乱軍側は、イーグルブラウン隊/ストームウォーカーで部隊を再編成せざるを得ないほどで、トータルで見ると反乱軍側が劣勢といえる結果といえるでしょう。
■戦闘中盤:本陣への急襲
かんじきを履いたターシュ戦士の一団の姿が現れる。彼らは毛皮のうえに装飾をほどこされたローブをまとっていた。「見ろよ、やつらドレスを着ているぜ」 誰かが言った言葉に、緊張の糸がきれたように爆笑がおこった。
「やつらはドバーダンの意気地なしどもだ」誰か別の男が言った。しかしこの言葉とは裏腹に彼らは大胆に前進して来る。その多くは手に長い長い槍を持っている。サーターの武器とは似つかないものだ。
「陽の天蓋の奴らみたいだ」とまた誰かが言った。
ターシュ人たちは「危険距離」(200メートル)に入った。ブライアン王は彼の戦士団に戦闘準備を命じた。「何をしてるんだ?」とおしゃべりな者がつぶやいた。彼らはブライアン王の一団に向けて槍を構えていたのだ。
「コットの稲妻だ!」ブライアン王は叫んだ。「突撃! 突撃だ、急げ!」 そのとき、爆雷が周りで炸裂した。槍から放たれた稲妻が大地を撃つまでに誰もが数歩しか動けなかった。荒れ狂う稲妻のうねり(《稲妻のアディ 15w》)が戦士団を焼いた。
「突撃!」 ブライアン王はどうやら雷を生き延びたようだった。王と戦士たちはターシュ人に向けて走り出す。
さらなる稲妻が王と戦士たちを襲う。3人の勇士が倒れた。その身体からは煙がもうもうと立ちのぼっていた。先頭の戦士たちはターシュ人のところへ到達したが、ブライアン王は二撃目で倒れた同志を助けるために後れていた。
「ターシュのために! ホン・イールのために!」 ターシュ人たちの口から叫びがあがった。彼らも突撃を始めていた! ブライアン王は短い命令を下すと、生き残った戦士たちは粗雑なシールドウォールをつくり、それに備えた。
ブライアン王、いきなり大ピンチです。
イーグルブラウン隊/ストームウォーカーの残存部隊と秘密の疾風団は谷をはさんだ向こうから本陣が急襲を受けているのを目撃します。
「“投槍”隊たちよ!」と秘密の疾風団の頭目、ジファー・ウルフソンは叫びます。「俺に続け!」 そして剣を抜き、谷を駆け下りて戦闘が行われている場所へ向けて走り出します。
PCたちは、これに続きます(続くよね?(笑))。すると、その走る脇にローブ姿の一人の女性があらわれてこう言います。「あの森の中に、まだルナーがいます。わたしたちが焼いてよいでしょうか?」(伏線) PCたちがこれに答えると、女性はすっと姿を消します。
■激戦
“槍匠”オースタロールの率いる“盾”隊(ミキの泥鶏団)もブライアン王本陣の救援に向かいます。いまや、全軍が集結しようとしています。
そこに、敵の本隊、ベリル・ファランクス連隊が到着します。ベリル・ファランクス連隊は「ハートランド軍団」のエリート部隊であり、ダラ・ハッパの「十のファランクス隊」の一つです。その盾は魔術で輝き、盾でまるで一つの壁のように並べられ、長槍が槍ふすまのように並べられています。
ファランクス隊は危険距離(200m)まで前進し、盾と槍を打ち鳴らします。ヒョルト人たちも、同じようにして応え、「フ・マクト! フ・マクト!」と叫びかえします。
「戦士たちよ! フマクトのために!」 ヒョルト人たちは前進を始めます。ルナーのように、整然としてではないですが。
ファランクス隊は、オーランス人側の前進にあわせて、若干後退します。「止まれ!」
それから、ホプライタイたちは同じ場所で三度足を鳴らします。その足は魔術で輝きはじめ、スピードを速めて前進を始めます。100メートルの戦闘距離をいっきに踏み越えて、恐ろしい規則正しさをたもちながら、きらめく盾の壁と槍ぶすまをもって。
ルナー本陣とヒョルト人全軍との、戦闘が繰り広げられます。
さらに、遊撃部隊として、エシルリスト卿の黒騎士(地獄の猟犬に乗っています)が10騎現れ、側面から突撃をしてきます。ターシュ歩兵連隊で再編成できた部隊も到着。「焦剣の旗軍」のうち先行できる斥候部隊(ベニアフィルの鳥隊と稲妻の飛鳥隊)も戦闘に加わります。
激戦となります。
■ルナー軍後退と戦略魔術の発動
長く続いた戦闘も、ルナー軍の本隊であるファランクス隊がいったん後退することで一休止となります。
オーランス人側の被害は甚大です。周囲には折れた剣、割れた盾、四肢が切断された者、貫通した槍を鎧に受けて倒れるもの、荒い息で苦悶の言葉を吐くもの……累々とした死体。流れた血で雪が染まり、滑りやすくなるほどです。
後退したルナー軍の後方の丘では、ルナー野戦魔術学院の司祭たちが戦略魔術(集団魔術)の使用を開始します。
紫煙があがり、異界から――おそらくルナー魔道の「ポータル」を使って――何かが召喚され――
戦場のウロックス信者たちは総毛だちます。
紫煙が晴れると、さまざまな混沌のモノたちが、丘の上に群れつどっているのが見えます。これは、ルーンクエストの「古の秘密」にあった、「群れ集う混沌」の一種であろうと思われます。
「群れ集う混沌」とは、ある種の混沌の集団に与えられた名前である。(中略)神知者であったイレンストスのパランタブラウムは、もっとも広く受け入れられている見解の提唱者である。それによると、彼らは実際には単一の存在で、互いのあいだに開いている空間は、その体の中に含まれているという。同じぐらい人気のある説は、彼の論敵であったティスカンダーのオルゲノスの説である。それによると、彼らは「時」の到来によってもグローランサから払われることのなかった、源初の混沌期における生態系の断片であるという。……(中略)
典型的な群れは、以下の怪物を含む。ブリンディサム、混沌のヤギ。ウルガン、粘りつくヘビ。ズィーチ、這いずるクジラ。バストク、混沌のワイバーン。赤ゴープ、色を除いてはふつうのゴープである。(後略)
(「グローランサ古の秘密」p.27)
野戦魔術学院は、おそらくルナーの「混沌の錬金術師」エイザールの力をつかって、混沌を戦場に召喚したのです。
混沌のモノは、反乱軍に向けてその歩みを向けます。
そして、ルナー側の後退は撤退ではなく、この混沌の召喚と戦線建て直しのための一時的後退であることは明らかでした。緒戦でオーランス人側に不意打ちをうけたターシュ歩兵部隊と、黄色いマントをつけたロングスピアと黄金のカイトシールドのきらめくファランクス部隊――イェルマリオの聖堂戦士団が北方から迫ります。
また、PCたちの宿敵であった部隊(焦剣の旗軍など)も戦線に加わってきます。
こうして、「凍土の戦い」最終盤の戦いの火蓋が切られました。
■最後の戦い
ここからは、さまざまなことが連続して起こります。
グローランサには集団で集まって一つのことが行われると大変なことがおこるという法則がありまして、ここでも神界と物質界の距離が小さくなって通常では考えられないような超自然的なことがおこります。最大の例は、ルナー軍とペント軍、双方万を超える戦力で戦った「恐怖の夜」の戦いです。この戦いも、後半では異界を現世に呼び出してしまいました(このため、双方80%を超える損害を出すという大災厄で終わっています)。
「凍土の戦い」のこの局面でも、「時」の網はゆるみ、巨大なアリンクスの神霊が現れ、狼の精霊と死闘を繰り広げたり、ヒョルトの鹿という神霊があらわれてオーランス人を助けたりします。
PCたちは、そのすべての出来事に参加することはできません。いろいろなことが同時並行でおこっているためです。
混沌とルナー歩兵隊との激戦のなか、以下のようなことが起こります。
太陽の使い
- 巨大な黄金の鷹の群れがあらわれて帝国軍を祝福し、反乱軍に襲い掛かります。そのついばみによる傷は、魔術以外治癒できません。
クルブレア部族の参戦の報
- 森から騎兵に追われたオーランス人たちが現れ、ルナーに対し協調政策をとってきた“負け犬”ラナルフ王が翻意し、「クルブレア族が参戦する」とつげ回ります。
- 反乱軍の士気回復。
- ただし、戦闘が終わるまでにクルブレア族の戦士団そのものは間に合いません。
混沌との戦い
- 混沌はPCのほうへ向かってきます。
- 混沌の諸相により、混沌のモノと相対しただけで「痛みを感じる」。このため、攻撃等にペナルティがあります(この効果を無効にするための伏線があったりしますが、それはここでは省略)
- 混沌のモノは、無数の触手をのばして攻撃してきます。
ブラスタロスの風
オーランス神殿に、ブラスタロスという女神がいます。
オーランス人は「七つの風」を知っています。物質的な風である四方(よも)の風(北風、東風、南風、西風)、魔術的な風である「高き風」と「低き風」、そして秘密の風であり、概念にして悟法的な風である「無風」(内なる風とも呼ばれます)です。
ブラスタロスはこの「無風」の女神であり、台風の目、海の大神マガスタの妻です。
ブラスタロスは、ときに「オーランスの真ん中にいる」といわれることもあります。
混沌と絶望的な戦いを繰り広げられるなか、一団の戦士たち、ブラスタロスを奉じる一団のまわりに、風がおこります。それはすぐに止んでしまいますが、「無風の風」は、風がなくともオーランス人たちに感じることができます。
ブラスタロスのカルトは、ブライアン王に、この「無風の風」を起こすために戦場に投入されていました。そして、この「凍土の戦い」の日は、ブライアン王によって「ブラスタロスの大聖日」に設定されていました。また、この「無風の復活」のために、ここにいない者たちにより、ヒーロークエストがおこなわれていました。そのクエストが、成功したのです。
無風――内なる風が戦場にいきわたります。
オーランス人たちは、風が止まってから初めて、深く呼吸ができたと感じます。
混沌の癒し手
- 森の中で待機していた参謀“紫の”ミナリスは、司祭団を率いてアーナールダの「混沌の癒し手」の女祭を援助し、混沌を弱体化させようとします。
火の神霊の復活
- ルナーの魔術と神界の接近によって、オーロックスの丘に神代から封印されていた炎の神霊たちが立ち上がり、炎の弓をもって攻撃してきます。
- ブラスタロス信者と、混沌の癒し手が狙われる。
- PCたちが何もできなければ、ブラスタロス信者たちや混沌の癒し手は炎の矢を受けて燃え上がり、死亡します。
トロウル軍の参戦
- 地面が揺れ、巨大な地虫があらわれ、その穴からトロウル軍が参戦してきます。
- これは参戦を表明したクルブレア部族の有力者、ハーシャクス卿(紫のミナリスの知己)の盟友たちで、狩人ゾング、蟲神ゴラキーキなど、特殊なカルトのものばかり。
- 巨大昆虫がルナー軍に突撃し、祈祷師は暗黒の精霊を放ちます。
- 混沌と戦う戦士である「カーグの息子」もいる。
- 炎の神霊とトロウル、暗黒の精霊の戦い。
- ルナーは不意打ちにより混乱します。
■風の復活
この時、戦場から歓声があがります。ある戦士が魔術を使い、空中を飛んだのが目に入ります。(PCたちがブラスタロスの無風の風が吹いた――風が復活した――と気づけば、PCたちがその役目を果たすべきでしょう)
風の魔術が復活したのです。
タシュケヴェス将軍はこれを見て、終日の戦いで自軍の魔術が消耗しているところに相手側の魔術が復活したこと、さらに「戦略的にはここで決着をつける必要はない」と判断し、撤退を命じます。ルナー軍は秩序をもって撤退を開始します。壊走ではなく、部隊を維持し、後に反撃するための撤退です。
混沌退治
- PCたちは、弱体化した混沌と決着をつけることになります。
- そこに撤退中で戦力が減っている「PCの宿敵」(焦剣の旗軍)の指揮官が無防備になっているのを発見します。
- また、北方からはイェルマリオ傭兵団がチャージしてくるのを目にします。
- どの敵と対するのか?
- しかしイェルマリオの聖堂戦士団は、混沌に対して突撃していきます。
- PCたちには伝令が。「我が君は、混沌の司祭たちと戦うために和睦を申し入れる」
- イェルマリオ傭兵団の契約では、ルナーは混沌を使わないとされており、契約違反によりイェルマリオはオーランス側についたとの説明がある。
こうして、「凍土の戦い」はルナー軍撤退により、オーランス人側の勝利に終わります。
被害は甚大ながら、ブライアン王は「オーランスの復活」を成し遂げたのでした。
……いま気づいたけど、トロウル軍とイェルマリオの傭兵団ってどうするんだろうなー。戦いになりそうな気がするけど(笑)。まあ混沌がいるからいいのか。
■ルナーの敗因分析
ルナー側の敗北で終わったこの戦いですが(正確にいうと、被害拡大を恐れて撤退したというのが正しい)、なぜ圧倒的に優位だったルナー側が負けたのでしょうか。
まず、戦術的には反乱軍圧倒的に不利でした。
ブライアン王が部隊に出した作戦からして「奇襲して逃げろ。まだ一撃加えられたら一撃しろ」だけですから、これだけを見るとただ単にやけっぱちになって反撃を試みているようにしか見えません。
士気はあまり高くない(グローラインの外なので)ものの、帝国軍はちゃんと陽動(ターシュ歩兵連隊を先導させ奇襲に備える)をした上で、主力のベリル・ファランクス部隊を迂回させてブライアン王の本陣にぶつけています。さらに予備隊のイェルマリオ聖堂戦士の傭兵隊まで投入して遠距離からは魔術部隊が攻撃。
予想外の粘りがあったものの、中盤までは「圧倒的ではないか、わが軍は」状態でした。
しかし、戦略的/魔術的に見ると、オーランス側が常にイニシアティブを握っていたといえることが分かります。
(1)「邪悪の召喚」儀式による戦闘状況・日の指定
ブライアン王のおこなった儀式により、ルナー側はオーランス信者側の意図に沿った日(ブラスタロスの大聖日)、見立て(北からルナー軍が侵攻してくる)、場所(隠れ場所が多い丘陵部で、隘路になっていて会戦ができず、ルナーが戦力を逐次投入しかできないところ)を指定することができました。
(2)大神であるオーランスの力の軽視
Vampire.S にいさまの分析になりますが、ルナー側はオーランスの「動的側面」(嵐)を押さえ込もうとしすぎて、静的側面である「ブラスタロス」(無風)に対して過度の魔力供給をしてしまっていたのではないか、ということ。
そして、恐らくそれによって、自然界のバランスを崩して、本来であればオーランスが使わないように「大事にしまっていた」ブラスタロスの力が発現してしまった、と。帝國が被った魔力の出所は、恐らく帝國それ自身でしょう。自分でため込んだ魔力に晒されて損害を受けるようでは世話が無い。
大体、第二期の末期には「風無き台風」とかの「オーランスを押さえつけちゃった時、もっとヤバイものが出てくる」って観測事実はちゃんと記録に残ってるのに。つくづく、ルナーって神知者の遺産をうまくつかえていないんですなぁ。
ブライアン王は、ブラスタロスの大聖日に戦闘の日を指定したことから分かるように、最初からこうすれば魔術が復活すると考えていたのでしょう。
……ただ、それならそうと最初からみんなに言ってくれればよかったのに(笑)。
(3)混沌を使ったこと。
決定的だったのは、(1)での「見立て」にもかかわるのですが、ルナーが混沌を使ったこと。
はっきりいって、あの時点で混沌を使わなくてはいけない理由は全くありません。野戦魔術学院はしゃぎすぎです。
これにより、「混沌はいつも北からやって来る」というオーランス神話での「見立て」をさらに強化してしまうことになりました。そして、最終的にはオーランスは必ず混沌に勝利しているのです。(さらに言えば、オーランス人の最初の王であり、ブライアン王の祖先でもあるヴィングコット王も同じことをしており、「北方行」(Northfaring)というヒーロークエストがあるぐらいです)
Vampire.S にいさまの分析では、これは大暗黒をそのまま再現させるシチュエーションになってしまったのではないかということ。
あーあ。こと地上界では、ヴァリンドは混沌に対して強い(「墜ちた嵐」では負けているが、「解氷」と「冬勝てり」の戦ではヒミール及びボズタカングと同盟して大暗黒における最大級の勝利を挙げている。というか、ヴァリンドは混沌に対する勝率はぶっちゃけストーム・ブル級に高い)から、ヴァリンドが顕現している環境では混沌を投入しちゃいけないのに。それやると、表ではトロウル・ヒョルト人連合による「混沌凍結」の英雄探索行を行って時間を稼ぎながら、裏で「光持ち帰りしもの達の探索行」を並行してやる、という手が取れてしまうので、結果的に「混沌を投入するために」そろえた魔力を逆手に取られてオーランス人勢力にひっくり返されちゃうんですよね。
ホント、ルナーは神話に無知だなぁ。
戦術的な側面でも、混沌を使えばイェルマリオの傭兵団が離反するだろうことは読めなかったんかい、という西山さんの指摘もありました。たしかに。
(4)ヒーロークエストが裏で行われていた
これは最後に分かるのですが、この戦闘と平行してじつはヒーロークエストが行われていました。
「オーランスの死」とヒーロークエストで書きましたが、この時期に行うことのできる唯一のヒーロークエストは、大暗黒時代におこなわれた神話――「光持ち帰りし者たちの探索行」でした。
ライトブリンガーズ・クエストは、大暗黒のなかで地獄へ旅し、生命を持ち帰るのが目的です。この場合は、オーランスの魔術そのものが持ちかえられたのですね。
ルナー側は、これを防ごうとはしていましたが、結局はこれに失敗してしまっています。
※※※
以上のように、複合的にルナー側は過ちをおかしており、結果として優勢をひっくりされた、ということになりましょう。
グローランサでは、物質界での戦いのほかに、異界での戦いが平行して行われている、というように見てもいいかもしれません。
このような神話把握の失敗がおこった理由として、Vampire.S にいさまはルナー属領地軍の人事の混乱をあげています。この事件のおこる直前期に、ターシュ出身の政治家・軍人である“博識”ファザールが解任され、かわってダラ・ハッパ出身でルナー野戦魔術学院の校長である“聡明なる”タティウスが属領地軍指揮官になっています。
Vampire.S にいさまの分析。
この時期、ファザールが解任されてタティウス系のダラ・ハッパ本流が末端の指揮をしていたのかもしれません。この場合、そもそもダラ・ハッパの連中は
- 混沌
- イェルマリオ
の両方に極めて無知(そもそも、ダラ・ハッパには「混沌」の概念が無い。イェルムではないもの=悪、であるので、わざわざその他大勢の分類をする気が起きないんですね)なので、その辺の機微を盛大に読み間違えることはあり得なくはないかと。
実際、ファザールはルナーの士官(故に、オーランスの神話はある程度知っている――ルナー神話の基盤には、結構オーランスの神話が入っています。光持ち帰りしもの達の探索行、とか)で、かつターシュで原体験としてのオーランス人を見ていますが、タティウスにはその辺の経験がゴソッと欠けていますし。オーランスによる大気循環を完全に地上界から消してしまうと、むしろ悪いことが起こるとか、そういう類のバランス感覚に欠けている印象が……> タティウス。昇月の寺院建立にしてもそうですが、タティウスは妙にオーランス信仰の根絶に力を入れているので、なんか視野狭窄を起こしてるのかもしれませんね。
ファザールが政争で失脚していなければ、あるいはこの戦いはオーランス側の敗北で終わっていたこかもしれません。
しかし、ルナー側は敗北したものの、彼らにとっては戦術的な小さな敗北でしかありませんでした。「グローランサ年代記」には、短く
1622年に、タティウスはヘンドレイキの地のブライアン王を脅かすために兵を送り込み、加えて「ラーンステイの足跡」から来た混沌の怪物の群れをときはなった。
としか書かれていません。
反乱軍がルナーの支配を覆すには、さらに大きな魔術的な成功が必要とされることが認識された一戦でもありました。
解放王の帰還
ルナー軍撤退後の戦場。
氷点下の寒さの中で累々たる死体は凍りつき、四方では手足を失った不具の男たちが呻きながら倒れ伏しています。その流れる血が雪をとかし、土と混じり赤い泥濘となって歩くPCたちの足をとります。
なんとか生き延びた者たちは、復活した魔術で傷を癒し、火を起こし糧食をとって回復に努めます。人々のあいだを癒し手たちが走り回り、重傷者の手当てに奔走しています。勝利を得たとはいえ損害は甚大で、反乱軍はその戦力のほとんどを使い果たしていました。
と、その時。
遠くから、何かピキッ、ピキッ――と空気が凍りつく音、そして何か小鳥が木を叩くようなかすかな音が聞こえてきます。
PCたちが顔をあげると、数百メートル離れたところに、巨大な氷柱が出現しているのに気がつきます。その氷のなかには、かすかな人影。額にはかすかな星の光が輝いているのが見えます。叩く音は、その氷柱から聞こえてくるようです。
「カリル様!」
“紫の”ミナリスが叫び、氷柱に向かって駆け寄ろうとします。
PCたちがなぜか(笑)一番近くにいます。駆け寄ると(するよね?)、カリル・スターブロウは氷の中に閉じ込められており、皮膚には霜がおり、目はなかば閉じられ、唇はほとんど紫色になっているのが分かります。その指先だけが動いて、内側から助けを求め、氷をたたいているのです。
GM:さて、どうする?
PC1:「カリルさま!」と剣で氷を割ろうとする。〈剣攻撃 17w2〉で。
PC2:そこらにある焚き火の燃えさしをひろって、氷柱を融かそうとしてみる。
PC3:《一里の投槍》をつかって、ジャベリンを魔術強化して氷柱を砕きます。
GM:ふむ。では《氷 10w4》の抵抗で判定してくれたまえ。これは神によって作られた氷だから、すごく硬いからな。失敗? では氷はすべての攻撃をはねかえすぞ。カキーン。
ということで、どうやって氷柱を砕くか? ということなんですが、じつは今までの文章の中にヒントが隠されています。思いつくか、ちょっと考えてみてください。
分かりましたでしょうか。
答え。
「流れる血が雪を融かしている」のに気づいたでしょうか。血を氷柱にかけてやればよい。実際にはインスピレーションロールか、ミナリスが気づいたことにしてもよいでしょう――。
うーむ。ご無体な。と思わなくもない展開ですね。グレッグ氏はシナリオの伏線張るのがあまり上手くないな。「普通気づかんわ!」と言いたい(笑)。
自分としては、PCが協力して判定値をあげつつヒーローポイントを使って抵抗をうわまわって成功したりとか、試行錯誤してもよしとするでしょうけど、実際にプレイした西山さん、どうしたか教えてください(笑)。
さて、PCが血を氷柱にかけてやれば、氷柱は煙をあげて融けだし、やがて轟音とともに崩れおちます。その後にはカリル・スターブロウが、気を失って倒れています。
ブライアン王をはじめ、反乱軍のリーダーたちはショックで青ざめながら駆け寄ってきます。
と、そのとき。
PCたちは、カリル・スターブロウの脇に、ひとりの少女が立っているのに(突然)気がつきます。
たった今まで、確かにそこにはその少女はいませんでした。
美しいその少女はひらひらの服をまとい、その足元には花が咲き乱れています。彼女には影がなく、視線はすべてをつらぬくかのようです。
PCたち、また戦場の者たちすべては彼女を目にしたとたん、まったく動けなくなってしまいます。
オーランス人たちには、彼女が何者か、すぐに理解できます。
オーランスとアーナールダの娘である、“永遠の春の乙女”ヴォーリアです。
ヴォーリアはPCたちを見ると(実際には、その場にいるすべての者が「自分の方を見た」と感じます)、口を開きます。
「あなたは、家族にだいじなものを分けてあげた?
血族をだましたことはない?
氏族の敵とたたかった?
癒し手たちを助けてあげた?
……」
女神は、「オーランスの死」、大暗黒のさなかの行動をたずねてきているのです。
PCたちが質問に答え、家族と氏族とオーランス人のために行動したことを応えるたびに、ヴォーリアはその春の力、再生の力を解放していきます。
ヴォーリアがいついなくなったのか、誰も気がつきませんでした。
春の力はそよ風に乗って、オーロックスの丘をつつみこんでいきます。
丘は、一面の花々につつまれ、傷を負っていたものはそれがいつの間にか癒えていることに気がつきます。
ヴォーリアがどんな姿をしていたか、それを思い出せるものはおらず(神の特性です)、ただ春の印象のみが残っています。
カリル・スターブロウは、家臣たちに支えられてPCたちの方へやってきます。ヴォーリアの力をもってしても回復しきっておらず、すぐに癒し手の治療が必要なことは見てとれますが、彼女は自分を助けてくれたPCたちに礼を言わねばならぬとやってきたのです。
「君たちは、わたしのヒーロークエストの最後を助けてくれた。私は7日前……あれは本当に、7日前のことだったのか?」 カリルの問いに、“紫の”ミナリスは頷きます。
「7日前に、私はわずかの供をつれて助けを求めて旅立った。私は“光持ち帰りし者たちの探索行”を、真のバージョンで試みた。オーランスが弱っているときであれば、その敵も弱くなっていると思ったのだ。たぶんそうだったのだろう。私はたくさんのものを失った。大切なダルビスとアヴァルナも……。しかし、最後のところで、友よ、君たちが私を助けてくれた。そのおかげで、やり遂げることができた」 カリルはPCたちを一人一人記憶するようにじっと見ます。
「君たちを覚えているだろう」そういうと、運ばれてきた担架に倒れこみます。「癒し手のところへ」
カリル・スターブロウから流れた血が地面におちたところには、紫色の「悲嘆の花」が花開きます。しかしその花は、花開く雛菊とケシの花のなかにうもれて見えなくなってしまいます。
こうして、「凍土の戦い」は終結しました。
この戦いの後、この戦いに参加した者たちだけは、魔術を使うことができるようになりました。PCたちをはじめ、この戦いに参加した者たちはドラゴン・パス各地へ赴き、まだ「冬」の中にいる人々にオーランスの復活を伝えてまわることになります。(「新たな息吹」(New Breather)と呼ばれる)
後に、この戦いはオーランスが解放された戦いとして認識されることになります。ドラゴン・パスにあいていたエア・ホールは閉じますが、ルナー軍はほとんどその戦力を減らしておらず、ターシュや帝国本土からの援軍により、さらにドラゴン・パスでの支配を強化していくことになります。タティウスの「大昇月の寺院」の建設は続き、それが完成すれば再びオーランスは死を迎えることになるかもしれません。
帝国軍は「新たな息吹」を狩り出し、殺戮するための部隊を送りだします。反乱軍が勝利するためには、さらなる同盟、さらなる魔術、さらなるヒーロークエストが必要とされるように思われました。
英雄戦争はブライアン王のエスロリア戦争、そして「星船の帰還」、「ドラゴンの目覚め」へと続いていきます。
「いまや大暗黒のとき。戦いに備えよ!」
「オーランスの死の物語」はこれにて終了です。
ながながとありがとうございました。