歴史
第一期、ドラストールは「神の賜物の地」だった。人の手によって光の神ナイサロールが創造された地であり、「ナイサロールの黄金帝国」の中心地であった。しかしナイサロールの死後、アーカットは「浄化の呪い」によりこの地を一掃し、ドラストールはまったくの不毛の地となった。そしてそれは永遠に続くかと思われたのである。しかし8世紀に、ドラストールは生命を取り戻した。おそらく、EWFあるいは神知者の実験の結果であったが、しかしそれはかつての豊穣の地としてではなく、今もある混沌と変異の地としての復活であった。
850年ごろ、テルモリ族はドラストールに入り、現在あるナングタリ台地に居を定めた。狼人たちは、すでに毒いばらの森とヘルウッドのエルフたちがいるのを発見している。1297年には、ルナー帝国によりリストの森が焼き払われ、生き残りのエルフたちがドラストールへ入った。彼らは同族の毒いばらの森のエルフたちに加わらず、ルナーへの復讐のために、1世紀のうちにヘルウッドの怪物(カージョールク)信徒たちに加わり、混沌となったようである。
それ以来、時折この地より襲撃があるものの、ドラストールはほぼ静穏である。最も近年の襲撃は1608年に起こっており、これがリスクランドのハザード砦の創設に結びついた。赤の皇帝は、ラルツァカークを恐れてか、あるいは他の領土の問題を解決するためか、リスクランドを「オーランス信仰の保証された自由の地」であると宣言した。プラックス、マニリア、南ペローリアの犯罪者や反乱者たちが、処刑や奴隷に落とされる代わりにこの地に入るのを選び、小さな入植地が各地につくられ始めている。
著名人
ケティル、“エリック殺し” Ketil Ericsbane
この風の王は1611年に王を殺害し、ビリニ王国を出奔した。今は追放されてスカンティの部族にあり、オックスヘッドの強力な指導者となっている。出生時のあいまいな予言によれば、来るべき偉大な出来事のなかで重要な役割を果たすと言われており、彼はその日に備えてビリニとの接触を続けている。
狂気のサルタン Mad Sultan
狂気のサルタンは「第一回混沌会戦」でクリムゾン・バットを目にして狂気に陥った。のちに“月を追う者”ジャニソールにより封印されたものの、数世紀後に「狂気領」の領界が破られたときに偶然に解放された。ルナー帝国南部で破壊の限りを尽くした後(その中で赤の皇帝も殺されている)、トリックによりドラストールへと追い払われ、今もこの地に居を定めている。彼は首の短いブロントザウルスに据えられた天幕に座って移動する。護衛がその両脇に控え、領民であるグレイスキン人たちがその前後に行進している(そしてときおり恐竜が空腹を満たす)。
ラルツァカーク、ユニコーンの皇帝 Ralzakark, the Unicorn Emperor
この半神は、自分はかつてグバージとして知られ、“大王トロウル”アーカットに切り倒されたのだと主張している。ラルツァカークは第二期に彼を悪と信じない神知者たちにより復活した。ラルツァカークは残酷で野心家だが、文明と高貴さを感じさせる雰囲気を身にまとっている。彼はドラストールを数世紀にわたり支配しており、数十年前にルナー帝国と条約を結んだ。噂では彼がラルツァカークとして知られる唯一の存在ではないという。真実は不明であり、おそらく知らない方が良いのであろう。
レネコット、“石の” Renekot the Stone
彼は現在のビリニ王(“泳ぎ手”ハーコン)の息子であり、リスクランドのハザード砦に新しい氏族を起こした。彼は「悪い時代の良き指導者」である。強力で勇敢だが、自分の民と資源には用心深い。彼の入植地はここ数年非常に栄えているが、それは混沌が彼に挑戦するまでのことだ、という者もいる。
スカンスとスカース Skanth and Skath
この怪物はドラストールの恐怖の中ではもっとも接触しやすい類であろう。彼らは二人の男女が手と足でくっついているように見え、しばしば訪れた者に友好的である。スカンスとスカースは魔術の品に飢え(文字どおり魔術の品を食べる)、出会ったほとんど全てのヒューマノイドに性交を申し出る。
ヴァイロープ Vyrope
「ドラスタの裂け目」の女祭は、常にヴァイロープと呼ばれる。現在の女祭は非常に高齢で、ドラスタの社のすべての者に敬愛されている。生まれたときからその位につくことを定められた、高慢な少女を後継者として育てている。
ウォワンダー Wowandor
混沌の英雄。1608年、「鹿乗り」として知られる集団を率いてドラストールから周辺地を数季にわたり略奪してまわり、ドラストールへと戻っていった。彼はそれ以後、目にされたことも噂になったこともない。多くの者は彼が再略奪の好機を待っているのだと考えているが、なかにはウォワンダーとは実はラルツァカークが変装した姿ではないか(あるいはその息子)と考える者もいる。ブルー王はこの噂を否定している。
「私はドラストール王、ラルツァカーク様のしもべである。我らが王国へようこそ。滞在を楽しまれるがよかろう」
「我はリスクランドの族長、“石の”レネコットの戦士だ。“新しい幸運の”ハザード砦へは、友として来たのか、敵として来たのか?」
概説:
ドラストールは「破滅の地」とも呼ばれる呪われた地である。定期的に周囲に混沌の略奪を吐き出し、他のペローリア地方に対する脅威となってきた。しかし、それは組織的な脅威というより無秩序と恐怖の源であった。だが破滅への警告は、近年さらに大きくなってきている。
ドラストールに自発的に入っていくものはいない。混沌に精通した手に負えないウロックス信徒や、ルナー人であっても。たとえ、そこに生息する存在の生態により探検を思い留まらなかったとしても、ドラストールでは物理的な地形さえも不確かなのである。一夜にして山が出現したり、ヘドロの沼地が現れて生命をもった有害な塵を吐き出したり、よく知られた丘陵地帯がまるで何かが地下で咳をしているように上下したりするような場所では、正確な地図などありはしない。いくつかの“恒久的な”地形は知られているが、それはここ1〜2世紀のあいだ変化していないという意味である。
住民:
ほとんどの住民は、ブルーもしくは混沌の恐怖である。「毒いばらの森」と「ヘルウッド」のアルドリアミも住んでいるが、後者は混沌に犯されている。孤立した場所をのぞいては、人間はリスクランドとナングタリ台地に住むのみである。他の住民はさまざまな混沌の邪悪な種族であり、スコーピオンマンと退化したグレイスキン人がもっとも一般的である。
ドラストールにのみ住む存在は数知れず、長い年月の間に現れては消えてきた。ラルツァカーク、ドーカットの幽鬼、スライムストーンの超巨大ゴープ、ゾンビー動物園が最もよく知られているが、“灰の男”、“吠え猛るもの”、スカンスとスカース、狂気のサルタン、そして“シング”などの恐怖が確認されている。存在が噂されているものの確認されていないものとしては、“歩く丘陵”、巨大ヘッドハンガー、七首ブロントザウルスなどがある。
ドラストールの人口分布
政治:
ドラストールのブルーのほとんどは野生か荒野の生まれであるが、ラルツァカークに統治されているブルーは部族制をひいており、グローランサでも最も文明化されているブルーの一団のひとつである。
毒いばらの森とヘルウッドのアルドリアミは一般的なエルフと同じく森の評議会に管轄されている(ただしヘルウッドの評議会の輪では混沌カルトの長がその高位を占めている)。
リスクランドは部族制度、テルモリ族は部族制にちかい氏族制度をひいており、ハーピーやスコーピオンマンは氏族制である。他の種族は、もしあるとしても原始的な段階の統治制度である。
軍事:
ほとんど組織化されていないが、ラルツァカークのブルーの練度は高い。彼が支配しているブルーの総数は把握されていないが、彼がグローランサでも最大のブルー軍団を率いていることは広く知られている。
リスクランドに住む人類は人数も少なく防衛能力は低いが、その強力な対混沌魔術で危険を生き延びている。
言語
ブルーはラルツァカークには「ドラストール語」、学者からは「混沌語」と呼ばれることもある方言を使う。それは完全な言語ではなく、他の多くの言語の断片から作られたもので、部族によって使われ方が異なる。ブルーの中には他の言語(特に一時的に共同戦線を張ることの多いスコーピオンマンのもの)を知るものもいるが、一方で原始的な一団では本当に簡単な言語のようなものしか使われない。少数の進歩的なブルーの中にはこの地に住むオーランス人の使う言語を操る。ラルツァカークの従者は新ペローリア語を学んでいる。
テルモリ族はスンチェン語を、リスクランドの人類はペローリア語族のゼイヤラン語であるビリニ語を使う。エルフたちはアルドリアミ語を使うが、それぞれの森で「アクセント」の違いがある。スコーピオンマンは独自の言語を持ち、ときにバゴッグ語と呼ばれる。他の種族は、言葉を喋るのであればほとんどがブルーの言葉を使う。
ドラストール主要事件表
1日に1件
一般的な事件
珍しい事件
きわめて珍しい事件
- ラルツァカークのブルー軍団が志願兵を募る。
- 狂気のサルタンが大祝宴を開く。地元住民が招待される。
- 新しい魔物と接触。グレイスキン人が信仰と捧げ物のために集められる。
- 大きな地形が、一夜にして現れる/消え去る。
ルナーの隊商
ラルツァカークとの協定により、ルナー帝国は1年にドラストールを通ってラリオスへと向かう隊商を送っている。
ラリオスとペローリアを隔てる「西岩の森山脈」で、唯一の峠がドラストールにある「カートリン峠」である。この峠には、第一評議会のドワーフたちがアーカットを押さえるために築いた要害・カートリン城がおかれている。あのアーカットもついにこの峠を越えることはかなわず、南方を迂回しマニリアを征服してドラストールへと入ったのであった。
隊商は海の季にタラスターのオールドウルフ砦から南にむかい、ラース砦――アーカット最後の砦――カートリン峠を越えて、ラリオスのカリアに入る。交易のあと、彼らは地の季にふたたびドラストールを抜けて帝国へ戻る。
ルナー帝国はこの交易を国家として推進しており、ルナー軍の一部隊が隊商につきそってオールドウルフ砦からカートリン城まで護衛をする。隊商は数百人からなる大きなもので、実際は小さな隊商が集まっているのである。ラリオスに入ると、隊商はそれぞれの目的地に向けてわかれ、雪がカートリン峠を閉ざす前にまた集まる。
勇敢で有能な商人といえども、生涯に2〜3回ドラストール交易をするのがせいぜいである。それだけの幸運があれば、十分な富が約束されるからである。そしてその運がなければ、破滅するか、死ぬか、呪われているであろう。
主要な地名
アーカット最後の塔(Arkat's Last Tower)
ドラストール征服の際、カートリン城を落とせなかったアーカットは、城より後背をつかれることを恐れて峠のふもとにこの砦を築いた。現在、自発的にここにとどまったルナー帝国軍兵士などを中心とした20名あまりが駐留している。狂信的なアーカット信徒がいるという噂の真偽は確認されていない。
灰の平原(Ash Flat)
第一期にアーカットによって破壊された「奇跡の都」の跡である。風に舞った灰は肺腑を傷めるため、非常に危険である。ここには“灰の男”とよばれる恐怖が棲んでいる。灰の平原はその大きさを変え、ときに通常の5倍の広さにまでひろがる。この地には「幾首の寺院」とよばれるドラストールのサナター信仰の中心地があると言われる。
灰の男(The Ashman)
“灰の男”は人間のような形をしているが、その皮膚は乾いた泥のようにひび割れており、周囲は濃い埃につつまれている。眼窩があるところは空洞となっており完全に盲目だが、非常に鋭敏な《大地の感覚》を持っているため、地面の震動を読みとることで1km以内の出来事を知ることができる。呼吸も食事もとらず、病気やほとんどの毒には耐性がある。(鉱物毒のみ効果がある)
“灰の男”は特に高い知性は持っていないが、その動機は複雑で、行動は予測しがたい。最初は非常に好奇心旺盛で純真、友好的で、雑な物言いだが、その意図することは分かりやすく思える。しかし、理由も分からず突如攻撃を始めたりするのである。それで相手を殺してしまったときには、戦うのを止めて死体を漁り、死体をばらばらに刻んでまき散らして持ち物を持って立ち去ってしまう(その最中に攻撃されれば、身を守るために戦う)。
“灰の男”の10m以内では、埃により肺にダメージを受ける。魔力によりこれを半径100mまで拡大することも可能である。灰の平原では、常に半径100mの埃をまとっている。風やシルフによってこの埃をまき散らすことは可能である。