概説
Q.ルナー帝国について大まかに教えて下さい。
A.ルナー帝国はジェナーテラ大陸の中央部、ペローリア地方からマニリア北部に広がる大帝国です。面積にして大陸の約3割を領有しており、北は氷原地帯(白海)から南は灼熱の荒野(プラックス地方)まで、地形は多岐に渡っています。その中心地は肥沃なオスリル河谷地方で、「ルナー・ハートランド」と呼ばれています。
「帝国」という言葉は、おおざっぱに言って「異なる文化圏・民族を一君主が統治している国家」と定義することができるでしょう。ルナー帝国は「ペローリア文化圏」、「カルマニア文化圏」、「ダラ・ハッパ文化圏」、一部「ゼイヤラン文化圏」などを抱合しています。これらを“赤の女神”の「ルナーの道」の教えと、女神の息子である“赤の皇帝”の支配の網が統合し、一つの国家を形成しているのです。
赤の女神は今から400年ほど前、いまは“七母神”と呼ばれる七人の賢者たちによって寄る辺なき人間の赤子として誕生しました。彼女はゴッドクエストによって神性を得、軍を率いて周囲の国々を改宗し、古き秩序の神々に勝利を収め、天空に「赤の月」を浮かべそこに去っていきました。
その後、帝国は女神の不死の息子である赤の皇帝によって支配されています。かつて遊牧民により大打撃を受けた帝国もようやく回復し、現在は南下政策をとって、敵対する嵐の神々の本拠地ドラゴン・パスを征服するに至りました。しかし100年に渡る長き平和は、軍の腐敗、様々な悪徳風習の蔓延、モラルの低下などを帝国の各所に引き起こしており、帝国の将来に暗い影を落としています。
Q.帝国はどのようなシステムで運営されているのですか?
A.帝国では赤の皇帝による絶対君主制が引かれていますが、実際には幾つもの王国が集まった連邦国家とも考えられます。
帝国のハートランド(中心地方)は、9つの君主領(サトラッピ)に分割されています。このそれぞれはサトラップ(遊牧民式に呼べばサルタン)に支配され、大きな自治権を保証されています。君主領の多くは、帝国軍とは独立した私兵軍団や独自の魔術学院などを持っていますが、各君主領は帝国正規軍「ハートランド軍団」に兵力を供出することを義務づけられています。
君主領の間の争いのほとんどは元老院の仲介で収まりますが、ときには武力衝突にまで発展することもあります。その時には「ハートランド軍団」あるいは皇帝直属の「皇帝親衛隊」が介入し、事態の収拾をはかります。
サトラップ(サルタン)は代々ひとつの“氏族”(クラン)から選出されます。これは、名字が同じ、つまり祖先を同じくすると認識している集団のことです。
君主領の貴族がこの氏族支配に不満を持ち、その地位を奪おうとすることもあります。このような場合、帝国法は「限定された戦争」、ダート競技会で決着を付けることを定めています。これはルールに基づいた暗殺合戦とでもいうべきもので、多くの傭兵、流浪の騎士、冒険者、殺人者、ごろつきなどが雇われ、お互いに殺し合うのです。最近では1606年にドブリアン君主領で行われています。
君主領の他に、帝国には「属領地」と呼ばれる領邦が9個(南方の5つの王国と、西域領の4つの伯爵領)あります。王国/伯爵領は属領地政府によって政治・宗教・官僚機構を統制されており、君主領ほどの独立性はありません。属領地にはハートランドから派遣された帝国軍、現地徴募の部隊が駐留しています。君主領と同じく、利害の不一致から属領地の王国同士が戦争をおこすこともあります。たとえば1604年にはターシュ王国がアガーに侵攻していますし、また1612年にはホーレイ女王国とイムサー王国の間で領土紛争がありました。
このように、ひとことで「ルナー帝国」と言っても、それぞれの領邦国家によって統治のシステムも文化も大きな違いがあります。これらを結びつけているのが赤の女神と皇帝への信仰なのです。
Q.ダラ・ハッパがどんなところか教えて下さい。
A.ダラ・ハッパはオスリル河の中流~下流にかけての沖積平野を差し、古代の言葉で「良き土地」「豊かな土地」という意味です。さらに限定すれば、三つのトライポリスの支配地域を指すと言えるでしょう(現在の君主領の国境ではその境界ははっきりとはわかりません)。三つのトライポリスとは、アルコス、ライバンス、ユスッパです。この三都市を含めたオスリル河畔の大都市には古代のイェルム文化を受け継ぐ人々が住んでいます。彼らは天空の神々を信仰しており、それらは被支配者であるペローリアの神々に優越していると主張しています。
ダラ・ハッパ文化は中央集権的で伝統主義的であり、個人の自由意志よりも集団の秩序を重んじます。また極端な父系社会であり、女性は社会に不可欠な存在であるにも関わらず、一段と低いところに置かれています。このような抑圧を嫌った人々がダラ・ハッパを離れ、ルナーの教えに身を投じることもあります。
Q.ペローリアはどんなところですか?
ペローリアとは、ダラ・ハッパ、カルマニアを含むジェナーテラ中北部全域を指します。ダラ・ハッパ文化が都市型/交易中心の社会であるのに対し、ペローリア文化は農村型/農耕中心社会であると言えます。大地の神ロウドリルとその妻神オリア、穀物女神ペラを信仰するのは共通していますが、その信仰形態は地方地方によって大きく違います。
ペローリア文化は素朴な農民文化です。彼らは支配者のことなどわずかにも気にかけず、支配を受け入れてきました。農民たちは家族・血縁者との相互扶助を基本とした生活を送っています。時折、好奇心旺盛な若者が他の世界のことを知ろうと村を離れ、冒険者となることがあります。
ルナーの教え
Q.赤の女神の教えだという、「ルナーの道」とは一体どんなものなのですか?
A.その基本的な思想は「人間は進歩できる」というものです。グローランサの古い神々は「時」到来の前に誕生したものであり、それ故に「時」の中では現在の姿に止まらざるをえませんが、赤の女神は「時」の中で生まれたがためにその制約を離れ、「より良い変化」を人間達に与えることができる、とルナー信徒は主張しています。「ルナーの道」には、人間の精神を解放し、超越(解脱)に到達するための「啓発」という手段が含まれています。赤の女神に従い、魂を解放することで、人間は神(あるいは神に近い存在)になれる、というのがその中心教義だと言えるでしょう。
Q.赤の女神の「啓発」というものについて教えて下さい。
A.啓発は神秘主義的(Mysticism)な悟りを通し人間の通常の精神状態を破壊し、特殊な洞察・世界観を人々に与えるものです。それは「あらゆる判断基準は自分の中にしかない」という悟りです。啓発は非常に危険で、簡単にその「暗黒面」に陥りかねません(判断基準が自分の中にしかないのであれば、他人や社会の存在は馬鹿馬鹿しいものに思えるかもしれません)。ルナー帝国には多くの啓発カルトが存在し、啓発者が暗黒面に陥らないように指導を行っています(しかし中には啓発の暗黒面のみを求める異端の啓発カルトも存在し、取り締まりの対象となっています)。このような危険な性格を持つため、ルナーの神々を信じる者のなかでも啓発を望むものはそう多くないと思われます(中世ヨーロッパで民衆の大多数がキリスト教を信仰しているにもかかわらず、誰もが修道士になろうとは思わなかったのと同じと考えて下さい)。
帝国公式の啓発カルトは「日の祭司団」(Order of Day)です。啓発されるには長い研鑽の日々が必要だと言われており、志願者たちは修道士や出家僧のような生活を送るのでしょう。啓発されて初めて、赤の女神のカルトに加わることができます。
女神は導き、皇帝は君臨す
ルナー帝国は多くの点で“太陽のダラ・ハッパ”を継ぐものだが、またそれを越えるものでもある。とくに統治のかたちのおおくは変わらぬかにみえる。徴税吏は相も変わらず強欲で、地方貴族は変わらず不愉快であり、兵士の生活はまったくおなじ兵士の生活のままである。だが、その下にひろがる哲学はまったく異なっている。太陽神殿の方法論は伝統・服従・協調にもとづいているが、ルナーの道は進化・変化・成長・相違の同化にもとづいているのである。赤の女神の使命とは、つきつめれば世界を統一し、癒すことである。女神は驚くべき存在である。なぜなら女神は矛盾の女神であるからだ。不滅の存在でありながら「時」のなかで再誕し、肉体をもって生まれながら神性を獲得し、とこしえの自然の秩序の力でありながら、エントロピー――「混沌」ともよばれる外界の力でもある。
寛容と同化をうったえるその信条をもって、なぜ恐るべき征服に乗りだすことになるのか、おおくは理解に苦しむだろう。平和と豊饒のあたらしい秩序をつくりだそうとする女神が、その生存のために捕虜たちの魂を喰わせなければならない巨大な混沌の恐怖、クリムゾン・バットの使用を認めるのはなぜだろうか。帝国における奴隷制を認めておきながら、タケネギが毎年その個人資産から奴隷解放運動の援助をしているのはなぜだろうか? その答えは、適切な展望を採用するためには、近視眼的・感情的な考え方や、偏見から自由にならねばならない、という点にある。すべてのものには均整がなければならない。もしユートピアを実現するのに野蛮な方法を採らねばならぬのならば、そうせねばならない。人々は生まれて死んでゆくが、生まれかわることができる。混沌でさえ、癒されたのならばあるべき場所がある。矛盾は社会を試し、強くしていくことができる。女神は安定ではなく成長を司る。女神は、彼女の子どもたち、彼女の信条、彼女の帝国に、成長、発展、探求、そして自分自身の選択をしていくことを望んでいるのである。
赤い月
赤い月、すなわちルフェルザは、また同時に女神の物質的な側面をつかさどる相でもある。あまたのルナーの力のみなもとであり、また神々や英雄、精霊や神霊の住むところでもある。地上からは、月は一週間の周期で赤から黒へ、そして黒から赤へと表面の色をかえる球体として目にすることができる。赤い色は昼夜を問わず見えるが、黒い色は昼間のみ見ることができる(月が覆いかくす星々や惑星から推測することはできる)。ルナー信徒がひきだして使うことのできる力は、見るものの立つ場所からみえる月の相に直接関係している。月面それ自体は、たくさんの宮殿、図書館、夢の海と信義の山脈がひろがる魔術の領域である。定命の者たちの目には、月に“顔”があるように見えるかもしれない。「ルビーの都」と「自我の高原」が“目”に、巨大な「オス山脈」が“口”のように見えるのである。その上にエネルギーの網――月に格子状にかかって脈動するエネルギーの運河――のかすかな光がひろがっている。しかしルナーの道の入信者はさらにおおくを目にするだろう。おそらく女神の慈悲深く美しい顔が下界を睥睨(ルビ:へいげい)し、かれら自身を見すえるとこころでさえ! ルナーの道をすすむにつれ、「暗黒面」として知られる見えない裏面が、エントロピーと悪夢の地であることがわかると言うものもいる。だが真に強大なヒーロークエスターか女神に祝福された者のほかに、そのことを確と知るものはいない。